問い合わせの電話を受けたあと、内容を紙に書き、夕方にスプレッドシートへ転記する。LINEで届いた追加希望をメールへ貼り直し、担当者へ確認してから返信する。そんな毎日の作業を減らしたくて、開発会社の問い合わせフォームを開いたところで手が止まっていませんか。
「何を作りたいですか」と聞かれても、画面や機能の名前までは決まっていない。今ある紙、メール、確認漏れ、転記の手間をどう説明すればよいのか分からない。ここで悩むのは自然です。
最初の相談文は、完成した仕様書でなくて大丈夫です。この記事では、今の仕事の流れと、最初に楽にしたい場面を伝えるための相談メモとして、初回の依頼文を組み立てます。
問い合わせ文で止まっていませんか?
「まだ何を作るか決まっていないのに、開発会社へ問い合わせてよいのだろうか」
たとえば、次のような場面です。
- 電話で受けた内容を、あとで紙から管理表へ書き写している
- LINE、メール、フォームの内容を一つの一覧へまとめ直している
- 担当者へ確認している間に、お客様への返信が遅れている
- 過去の申込内容を探すたびに、紙の束やメール履歴を見返している
- 確認メールの文面を毎回少しずつ手で直している
- 「この作業をシステム化したい」と思っても、機能名に置き換えられない
開発会社へ相談するとき、多くの方は「ログイン」「管理画面」「通知」「CSV出力」のような機能名を並べようとします。
でも、最初に大切なのは機能名ではありません。誰が、何に困っていて、どの作業を先に楽にしたいのかです。
そこが伝わると、開発会社は「まず試作で確認する」「既存サービスを組み合わせる」「本開発の前に整理する」など、現実的な進め方を提案しやすくなります。
先に結論
初回相談の依頼文には、次の7つを書ければ十分です。
- 今、どんな業務で困っているか
- その業務を、今は誰がどのように行っているか
- 紙、電話、LINE、メール、スプレッドシートなど、今使っている道具は何か
- 最初に楽にしたい流れはどこか
- 使う人は誰か
- まだ決まっていないことは何か
- 相談で一緒に決めたいことは何か
反対に、最初の問い合わせで次のことまで決め切る必要はありません。
- 画面の細かい配置や色は、初回相談前に決めなくてよい
- データベースの項目名は、今使っている紙や表を見ながら後で整理してよい
- 外部サービスとのつなぎ方は、使いたいサービスが決まってから確認してよい
- 正式な予算は、試す範囲や優先順位を見てから相談してよい
- 完成版のすべての機能は、最初から一度に書き出さなくてよい
依頼文の目的は、相手へ完璧な答えを渡すことではありません。相談の入口を作ることです。
依頼文は仕様書ではありません
「仕様書」は、作るものの内容を細かくそろえるための文書です。画面、入力項目、処理の流れ、利用者、運用方法などを整理します。
一方で、初回の依頼文はそこまで細かくなくて構いません。
デジタル庁の標準ガイドラインでは、政府情報システムの整備や管理には手続・手順の共通ルールがあり、要件定義書や調達仕様書の標準テンプレートも用意されています(参考)。ただし、これは本格的な調達や開発で使う整理です。
中小企業や小規模事業の初回相談では、いきなり同じ粒度を目指すと手が止まります。まずは、開発会社が状況を理解できる材料を集めます。
GOV.UKのサービスマニュアルでも、作る前に問題を理解し、利用者が何を達成しようとしているか、今どんな制約があるかを学ぶ考え方が示されています(参考)。これは大きな公共サービス向けの資料ですが、相談前の整理にも使えます。
つまり、最初に書くべきなのは「こういう画面を作ってください」だけではありません。
次のような説明がある方が、話が早くなります。
- お客様からの問い合わせを、今は電話とLINEで受けている
- 受付担当が紙にメモし、夕方にスプレッドシートへ転記している
- 担当者へ確認するまで返信できず、連絡漏れが起きる
- まずは受付内容を一覧化し、担当者へ通知できるか試したい
このくらい具体的なら、まだ仕様が固まっていなくても相談できます。
どの形で相談する?4つの伝え方
依頼文には、いくつかの形があります。最初から正式な資料にする必要はありません。
| 相談の形 | 向いているケース | 主なメリット | デメリット・確認点 |
|---|---|---|---|
| 短い問い合わせ文 | 困りごとはあるが、作るものや予算がまだ決まっていない | 最初の連絡をしやすく、相談で決めたいことをそのまま伝えられる | 業務の流れが少なすぎると、相手が質問しないと状況をつかめない |
| 相談メモ | 紙、メール、スプレッドシートなど、今の資料を見ながら話したい | 今の作業、使う人、困っている場面をまとめて伝えやすい | 決まっていない項目を無理に埋めると、かえって誤解が生まれる |
| 簡単な業務フロー | 受付、確認、返信、集計など、複数の担当者をまたぐ作業がある | どこで転記や確認漏れが起きるかを一緒に見つけやすい | きれいな図にする必要はない。箇条書きや写真でも十分な場合がある |
| 正式な仕様書・依頼書 | 発注先を比較したい、社内決裁が必要、見積条件をそろえたい | 複数社へ同じ条件で相談しやすく、見積もりの前提を残しやすい | 作成に時間がかかる。初期段階では、先に試作や整理が必要なこともある |
初回相談なら、短い問い合わせ文か相談メモで十分です。正式な仕様書は、作る範囲や前提をそろえる段階で考えれば間に合います。
初回相談で伝える7項目
依頼文を書くときは、次の順番にすると読みやすくなります。
1. 今困っていることを書く
「業務を効率化したい」だけでは、相手はどこから聞けばよいか分かりません。
次のように、日常の場面で書きます。
- 電話で受けた申込を紙に書き、あとでスプレッドシートへ転記している
- LINEで届いた変更希望を担当者へ確認し、メールで返信している
- 月末に参加者一覧を作るため、複数のファイルを見比べている
細かい機能名より、現場で起きている作業が伝わる方が有用です。
2. 今の流れを書く
「誰が、何を見て、次に誰へ渡すか」を書きます。
たとえば、次のような形です。
- お客様が電話またはLINEで問い合わせる
- 受付担当が紙に内容を書く
- 現場担当へ空き状況を確認する
- 受付担当がお客様へ返信する
- 夕方に管理表へ転記する
この流れが分かると、開発会社はどこを自動化し、どこを人が確認するべきか考えやすくなります。
3. 使う人を書く
使う人が一人なのか、複数の担当者なのかで作り方は変わります。
- 受付担当だけが使う
- 現場スタッフもスマートフォンで確認する
- 管理者だけが集計やCSV出力を使う
- お客様もフォームから入力する
ここでは、役職名や人数の目安で構いません。名前や個人情報を出す必要はありません。
4. 最初に楽にしたい流れを書く
全部を一度に変えようとすると、相談が広がりすぎます。
まずは「最初に楽にしたい一つの流れ」を選びます。
- 問い合わせ内容を一覧に集めたい
- 担当者へ自動で通知したい
- 確認メールを決まった文面で送りたい
- 月末のCSV出力を楽にしたい
GOV.UKのユーザーストーリーの資料では、利用者、やりたいこと、理由を短く説明する考え方が紹介されています(参考)。専門的な形式にこだわる必要はありませんが、「誰が、何をしたいのか、なぜ必要なのか」は相談文にも入れておくと伝わります。
5. 今ある資料を書く
開発会社は、現物に近い資料を見ると状況を理解しやすくなります。
- 紙の申込書や記入例がある
- 今使っているスプレッドシートがある
- お客様へ送っているメール文面がある
- 手順書やチェックリストがある
- よくある問い合わせの例がある
最初の問い合わせに添付しなくても構いません。「必要であれば共有できます」と書くだけでも十分です。
6. 決まっていないことを書く
決まっていないことを隠す必要はありません。
むしろ、先に書いておくと相談しやすくなります。
- 画面の細かい項目はまだ決まっていない
- 既存サービスで足りるか、個別開発が必要か分からない
- 予算は大まかにしか決まっていない
- まず試作で確認するべきか相談したい
「未定です」だけで終わらせず、「相談で決めたい」と添えると、相手も次の質問を出しやすくなります。
7. 相談で確認したいことを書く
最後に、初回相談で聞きたいことを書きます。
- まず何を整理すればよいか
- 小さく試すなら、どの範囲がよいか
- 既存サービスで足りる部分はあるか
- 開発する場合、見積もり前に何を決めるべきか
ここまで書ければ、依頼文としては十分です。
伝わりにくい依頼文の例
次のような依頼文は、相手が状況をつかみにくくなります。
業務効率化のため、管理画面と通知機能とCSV出力があるシステムを作りたいです。見積もりをお願いします。
この文章が悪いわけではありません。ただ、何を管理するのか、誰へ通知するのか、CSVを何に使うのかが分かりません。
次のように、現場の流れを少し入れるだけで相談しやすくなります。
電話とLINEで受けた申込を、受付担当が紙に書いてからスプレッドシートへ転記しています。担当者へ確認してから返信するため、確認漏れと返信遅れが起きています。まずは申込内容を一覧に集め、担当者へ通知し、月末にCSVで確認できる形を試したいです。
後者なら、まだ画面の細部が決まっていなくても、相談の入口になります。
送る前のチェックリスト
チェックが全部埋まらなくても問題ありません。分からない項目は、初回相談で確認する項目です。
そのまま使える相談メモ
初回相談メモをコピーできます
まだ決まっていない項目は「相談で決めたい」と書いて大丈夫です。問い合わせフォームやメールの下書きとして使えます。
開発相談をしたい内容: 【今困っていること】 例:電話、LINE、メールで受けた依頼を紙に書き写していて確認漏れが起きる 【今のやり方】 例:受付担当が紙に記入し、夕方にスプレッドシートへ転記している 【使う人】 例:受付担当2名、現場スタッフ5名、管理者1名 【最初に楽にしたい流れ】 例:問い合わせ受付 → 担当者確認 → お客様へ返信 → 管理表へ反映 【できれば入れたいこと】 例:通知、一覧画面、CSV出力、検索 【まだ決めていないこと】 例:画面の細かい項目、外部サービスとのつなぎ方、正式な予算 【相談で確認したいこと】 例:まず試作で確認した方がよいか、既存サービスで足りるか 【共有できる資料】 例:今使っている紙の記入例、スプレッドシート、通知メールの文面
次にやること
まず、今週中に実際に起きた問い合わせや申込を3件だけ選んでください。
次に、その3件について「どこから来たか」「誰が確認したか」「どこへ転記したか」「何に時間がかかったか」を短く書きます。
それだけで、相談文の材料になります。
Ready Mockの業務改善チェックでは、紙、電話、LINE、メール、転記、確認漏れのうち、どこから試作や自動化を考えるとよいか確認できます。問い合わせ文を書く前の整理にも使えます。
参考情報
- デジタル庁「デジタル社会推進標準ガイドライン」 - ページ最終更新日 2026年6月12日。DS-100/110/120は2025年6月19日更新、策定日または最終改定日 2025年5月27日。各種テンプレートは2025年10月6日更新。要件定義書・調達仕様書テンプレートの位置づけを確認。2026年7月12日参照。
- GOV.UK Service Manual「How the discovery phase works」 - Published 4 August 2016、Last updated 21 June 2021。作る前に問題、利用者、制約を理解する考え方を参照。2026年7月12日参照。
- GOV.UK Service Manual「User research in discovery」 - Published 18 November 2016、ページ上で最終更新日は確認できず。現在の流れ、利用者、困りごとを調べる観点を参照。2026年7月12日参照。
- GOV.UK Service Manual「Writing user stories」 - Published 16 February 2016、Last updated 23 May 2016。利用者、やりたいこと、理由を短く説明する考え方を参照。2026年7月12日参照。
